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スポーツドクターコラム
第二期 VOL.13「脳や目への影響に気を付けたい頭部骨折」
2012/12/25
頭部骨折
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Jリーグの発足当時、足首やひざなどのケガとともに顔面骨折がよく見られました。現在では顔面骨折はあまり見られないことから、リーグ全体がまだ未熟で競技やレフェリングのレベルの低さがラフプレーを招き、負傷者を生み出していたと考えることが自然でしょう。
頭部骨折は顔面と頭蓋骨の2つに分けられます。頭蓋骨に比べ側頭部を含む顔面の骨は細く柔らかいため、折れやすい骨と言えるでしょう。頭蓋骨骨折で一番怖いのは、骨が陥没し出血することです。脳に直接のダメージがあれば、意識障害を伴い極めて危険な状態となります。11年にサンフレッチェ広島の水本裕貴選手が試合中に負傷したことを覚えている読者の方も多いのではないでしょうか。
顔面骨折はサッカーやラグビーなど激しいフィジカルコンタクトを伴う競技に多く見られます。鼻が曲がる、つぶれる、頬が陥没するといった具合に見た目の変化が大きいのが特徴です。鼻や目、口など多くの器官が集中する顔面は、骨折の治療はもちろんのこと、それらの器官をいかに守るかということに留意しなければなりません。顔面骨折で一番多い鼻骨骨折で言えば、鼻腔が狭くなることがあるので手術により複製しなければなりません。同じように眼窩骨折では物が二重に見える複視、頬骨の骨折による開口障害、上あご、下あごの骨折に伴う咬合障害などは、日常生活にも大きな影響を与えかねません。咬合障害を起こさないために、輪ゴムやワイヤーで長期間上あごと下あごを固定しますが、この期間は食物を口から摂取することができません。スープやゼリー状の物を鼻からすすることになるのですが、これがどれだけ辛いかは想像に難しくないでしょう。また、骨折の後遺症により表情に影響があれば、骨切りや骨移植、または人工骨などを用いて形態を改善する場合もあります。
数ある障害の中でも一番怖いのは眼球運動障害ではないでしょうか。眼球は周辺の7つの骨によって支えられていますが、眼窩壁は上壁が非常に硬いのに対し、下壁が薄いため外圧により骨折することがしばしばあります。下壁が骨折すると眼球そのものが下がり、さらには眼球を支える筋肉が骨の間に挟まるため眼球の動きが制限されてしまいます。これを眼球の上転障害と言います。物を見る場合、両目を使い焦点を合わせることによって1つの実像を認識します。先ほども触れましたが片目の調整機能に異常があれば正確に実像を把握できず、物体が二重に見えてしまうのです。
しかし、何よりも競技復帰への障害となるのが、精神的な不安をいかに取り除くかということです。頭部死球により打撃フォームを崩し成績を落とす野球選手も多くいますが、受傷者の心理的負担は人によって差はあるものの少なくありません。先のクラブW杯で来日しチェルシーのゴールを守ったチェフは、06年試合中に頭蓋骨骨折の重傷を負いました。回復して数年が経過していますが、現在でもヘッドギアを付けてプレーしています。頭部骨折は患部の治療だけではなく、精神的なケアが必要なことも特徴と言えるのではないでしょうか。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。