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スポーツドクターコラム
No.68「ゴールキーパーに多い舟状骨骨折」
2009/05/10
舟状骨骨折
手首の親指側にある舟状骨は、指と腕の骨を連結する役割があります。手関節にある複数の骨の中でも舟状骨骨折は比較的発生頻度が高いスポーツ障害です。
一般的に舟状骨骨折は腕を伸ばした状態で転倒し、手を地面に強く打ちつけた際によく起こります。ただ、スポーツ選手においては手首が過伸展強制されて起こることがほとんどです。その中でもよく見られるのがサッカーのゴールキーパーで、シュートを受けたときに発症します。ただ、一度の強い衝撃だけでなく、何度も繰り返し刺激が与えられることにより骨折することが多く見られます。骨折時にはスナッフボックス(親指の付け根にある筋と筋の間にあるくぼみ)が腫れ、圧痛や握力の低下、手の可動域が制限されるなどの症状が見られます。
専門医では容態を確認するためにまずレントゲンで診察を行いますが、レントゲンだけでは患部に腫れや痛みがあるにも関わらず、骨折が見つからないこともあるので必ずMRIを受診するべきです。舟状骨は血流の分布が他の骨より少なく骨がつきにくい性質があるため、骨折に気付かずそのまま放置しておくと、癒合せずに偽関節となり変形を生じることがあります。MRIは血流の評価をするのに適しており、またレントゲンでは見分けることのできない骨折線がMRIにより見つかる場合もあるため、レントゲンだけでなくMRI検査は欠かせません。
治療方法としては、一般の方はギプス固定をして回復を待つこともありますが、完治までに長い期間を要するため、競技への早期復帰を望むスポーツ選手には手術を勧めます。手術を行う際はチタン製のハバードスクリューを使用し、ワイヤーを通して穴を開けていくのが一般的で最も的確な手術方法です。一方、偽関節の場合は新鮮な骨が見えるまで骨折した部分を削り落とし、その部分に適応するように骨移植を行い、変形した骨を元の位置に戻していきます。たとえ偽関節の場合でも、一定の時間はかかるものの状態は徐々に回復するため、競技への復帰は可能です。
また、骨挫傷が見られた場合は競技を中止させMRIで経過を観察し、血行不良が改善する傾向が見られれば手術を回避できます。手術を回避して早期復帰するためにも、早期発見が大切なポイントになります。
スポーツ選手は多少の痛みを我慢して競技を続けることが多いですが、刺激を何度も加えることにより偽関節になる可能性は高まります。舟状骨骨折は、骨折に気付かず偽関節になってから専門医を訪れる方が多いので、圧痛や腫れなどの症状が続く場合は骨折を疑い、早期発見、早期治療に努めて悪化を防ぎましょう。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。