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スポーツドクターコラム
第二期 vol.2 肩の故障の原因と予防法
2012/01/23
肩の故障
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07年にカープの河内貴哉投手、10年に大竹寛投手がそれぞれ肩を痛め、現在に至るまで長い治療とリハビリの日々を送っています。他球団ではソフトバンクの斉藤和巳コーチは07年以降、度重なる右肩の手術から復帰することができていません。投手にとって肩の故障というのは、選手生命に影響を及ぼす致命的なものになります。
なぜ肩はこれほど難しい関節なのでしょうか。ひとつには肩の構造上の問題があります。骨の上に骨が乗っている構造のひざや股関節などと違い、肩関節は肩甲骨に上腕骨がぶら下がっているだけ、と言ってもいいでしょう。例えるならば、ゴルフボールが横に寝かしたティーにくっついているイメージです。もちろん骨だけでぶら下がることはできないので、筋肉や靱帯、関節包などでようやく支えることになります。つまり、もともと不安定な関節であり痛める可能性が高い箇所でもあるのです。
球を投げるときには、ティーの上をゴルフボールが高速で回転していると考えることができます。その動きを司るのが肩関節で最も大きな要素を占める、筋肉です。筋肉は大きく分けて2種類、アウターマッスルとインナーマッスルに大別することができ、前者は三角筋や上腕二頭筋など目に見える大きな筋肉で、ものを持ち上げたり伸ばしたりといった大きな動きに働きます。後者は関節軸に近い場所にあり、肩を安定させたりひねる運動を行う筋肉になります。
投手は150キロにも及ぶ速球を投げますが、そのときに肩にかかる負担は相当大きなものになります。このとき、インナーとアウターのバランスが取れていないと、ズレが生じて関節唇や関節包などいろんなところを痛める原因になります。それらを複合的に痛めると、非常に治療しにくくなります。それが、肩の故障からの復帰を難しくしている原因です。
以上は肩に注目した局所的な原因になりますが、実は肩だけに故障の原因があるわけではありません。先ほどティーに例えた部分の軸がぶれていれば、それだけで故障の原因になります。ティーを支えるのは、肩以外の体全体になります。投手で言えば、下半身をしっかり使い、その力を連動させて投球に繋げるということをしなければすぐに肩を痛めることになります。
それはフォームの問題なのですが、しっかりとした体の軸ができていてこそ、正しいフォームで投げることができるようになります。ピラティスや体幹トレーニングを行い体の軸を確立させることが、運動を行う上で欠かせない土台になるのです。
例え良くないフォームで投げていても、若いうちは筋肉がカバーしてくれるかもしれません。しかし年齢を重ねると筋力は落ちます。そのときに理に適っていないフォームで投げれば必ず体のどこかに負担がかかり、故障することになります。黒田博樹投手が日米で長く活躍できているのも、非常にきれいなフォームで投げているからなのです。
肩は難しい関節です。故障からの復帰はとても厳しい道のりになるため、常に予防をしておかなければなりません。そのためには、バランスの良い筋力トレーニングと、正しいフォームで投げるために体の軸を鍛えておくことが重要なのです。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。