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スポーツドクターコラム
第二期 VOL.6「スイング、投球時の脇腹痛」
2012/06/07
脇腹痛
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脇腹の故障は体を捻る動作の多い野球選手にとって、職業病と言っても過言ではないのではないしょうか。長いプロ野球のシーズンで選手の離脱のニュースを耳にすると、脇腹の故障を原因とするものが必ずあります。それはスイング時、または投球時において選手は上半身の動きを下半身より遅らせることでタメを作ろうとするので、どうしても捻れる脇腹に負荷が掛かるのです。脇腹の損傷の代表的な症例として、肋骨の疲労骨折や腹斜筋の損傷が挙げられます。
これらの症状の原因に目を移すと、大きく分けて2つが考えられます。1つめはフォームによるものです。打者の場合、地面に沿って水平にバットを振るレベルスイングであれば問題ありませんが、アッパースイングやダウンスイングでは肋骨の間にある肋間筋に過度の応力が加わります。肋間筋が何度も収縮する中で一部分に力が加わり過ぎると、炎症の原因となるのです。この炎症が進行すると、疲労骨折を引き起します。ゴルフをされる方は“明治の大砲”という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。″明治の大砲〟とは体重移動が通常とは逆になるスイングのことで、いわゆる“すくい打ち”の状態になっています。力を伝える方向と体重移動が逆になっているこのフォームは、脇腹を痛める典型的な悪い例です。
2つめは体の軸の問題です。正しいトレーニングで体幹を鍛えていないと、スイング、または投球時に体がぶれてしまいます。そうすると先程と同様に脇腹に過度の応力が掛かります。ひざや腰などに痛みを抱え回旋時に上手く体重移動ができない場合も、同様の問題が起こります。
最初に職業病といいましたが、スイングや投球動作のように何度も同じ動作を繰り返し一部分に応力が掛かることを“メカニカルストレス”と言います。これは針金をイメージしていただければ分かりやすいと思います。何回も針金を曲げることと伸ばすことを繰り返すせば、曲げられる部分は柔らかくなり、やがて折れてしまいます。柔らかくなった状態が炎症で、折れてしまうと骨折したと例えることができます。
打者と違い投手の場合、肋骨の疲労骨折はあまり見られません。これは力の掛かる場所が野手と違うことが考えられ、肋骨より下の腹斜筋の損傷が多くなります。周辺には腹直筋や腹横筋といった筋肉がありますが、投球時に最も伸びる腹斜筋を痛めるケースが一番多いのです。
脇腹の故障でもう1つ知っておいていただきたいのが、背中のヘルニアによる神経痛です。これは柔道、レスリングやラグビーなど格闘技やコンタクトスポーツで起こりやすい障害です。背中の神経は脇腹に沿って伸びており、神経が刺激されると脇腹の痛みやそれにより呼吸が難しくなるといった症状が見られます。
脇腹の損傷についてはレントゲンでは肺や気管支に隠れて骨折線や炎症箇所が見つかりにくく、CTやMRIの検査を受けることをお勧めします。治療を施し回復を図ることはもちろん大切ですが、筋力的にバランスの取れた体で、正しいフォームでプレーすることがケガの再発を防ぐ一番の近道と言えるでしょう。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。