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スポーツドクターコラム
第二期 Vol.16「致死率50%超のセカンドインパクトシンドローム」
2013/03/23
セカンドインパクトシンドローム
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昨年末、スキージャンプの高梨沙羅選手が練習中に転倒し脳震盪と診断されました。大事には至らなかったものの、多くの方が心配されたのではないでしょうか。脳震盪というのはアメリカンフットボールやサッカーなど接触プレーの多いコンタクトスポーツで起こりやすい疾患です。脳震盪は頭部や顎付近への衝撃によって起こる脳機能障害、脳の興奮によるものです。ひと言に脳震盪といっても程度により3つに分かれます。意識消失がなく15分以内に症状が軽快するものを「軽度」、軽快に15分以上要するものを「中度」、数秒でも意識消失があるものは「重度」と判断します。軽度の脳震盪は一度目であれば競技復帰が許可されますが、二度目以降は医師の判断により競技復帰を認めない場合もあります。中でも短期間に二度の脳震盪を起こすことを「セカンドインパクトシンドローム」といい、致死率が50%を越えるケースがあります。今回はこのことについてお話ししたいと思います。
アメリカンフットボールにおける頭部外傷のアンケートでは、重症頭部外傷を起こした39例のうち、過半数を越える21例(54%)に外傷を負った前数週間以内に頭痛を主とした脳震盪の症状があったことが報告されています。このケースではおそらく最初の脳震盪を起こした際に急性硬膜下血腫を起こしていたにもかかわらず、出血が少量のため脳震盪と区別がつかず競技を続けたことが問題です。それにより脳が完全に回復する前に二度目の衝撃を受け、架橋静脈から致命的な出血を起こしていたことが考えられます。架橋静脈は硬膜の内側に存在し、脳と頭蓋骨を繋いでいます。この静脈が破綻、出血し、硬膜と脳の間に血腫が形成された状態を急性硬膜下血腫といいます。急性硬膜下血腫はスポーツにおける死亡事故の主因の一つで、受傷直後から意識障害が表れることが多く、めまいや嘔吐などを起こし、脳ヘルニアが切迫すると除脳硬直、瞳孔不同が見られ非常に危険な状態に陥ります。このようなケースでは早期に開頭し、血腫の除去が必要となりますが、症状によっては回復が難しいこともあります。選手生命という観点からもこのような状況に陥ってしまうと復帰は難しいと言わざるを得ないでしょう。
これらのことからもスポーツの現場では、脳震盪及びセカンドインパクトシンドロームに対する注意が重要です。冒頭に挙げたアメリカンフットボールなどは防具が飛躍的に進歩したこともあり、接触プレーが重大な事態を招くことは減りつつあります。また、今日では選手の安全に対する働きかけが進みFIFAやIOC、IRB(国際ラグビー評議会)などの主要4団体は脳震盪に関するガイドライン(SCAT2)を設け、脳震盪が疑われる選手の評価基準や復帰までのプログラムを明確化しています。実際にJリーグでもSCAT2を用いた医学的評価を行っており、中度以上の脳震盪を起こした選手に対しては7日間の競技復帰を禁止しています。
このように頭部への衝撃は危険が伴います。軽度の脳震盪でも症状が遅れて表れる場合もあるため、少なくとも24時間は一人にならず、安静にすることが求められます。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。