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スポーツドクターコラム
第二期 Vol.17「初回脱臼時の治療が防ぐ反復性肩関節脱臼」
2013/04/25
反復性肩関節脱臼
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11年にセリエA・インテルに所属する長友佑都選手がプレー中に右肩を脱臼し、精密検査のため広島を訪れたことをご存知の方も多いと思います。彼は以前にも同箇所を脱臼しており、癖になっていたと思われます。今回は長友選手も患った、反復性肩関節脱臼(脱臼癖)について説明します。
まず、肩関節脱臼には外傷性、非外傷性の2種類が存在します。外傷性にも前方脱臼、後方脱臼などいくつか種類がありますが、反復性肩関節脱臼はほとんどが前方脱臼です。前方脱臼はスポーツでの衝突、転倒などで肩関節が外転、外旋、伸展の動作を強く引き起こし、上腕骨頭がから前方に脱臼した状態です。
反復性肩関節脱臼というのは初回脱臼時に肩関節内部が損傷し、制御機能に支障をきたしたことから軽い外力でも前方脱臼を度々起こしてしまう状態のことです。損傷には代表的なものが3つあり、その形によって名称(病変)は異なります。1つは『バンカート・リジョン(バンカート病変)』と呼ばれるものです。損傷の中でも約8割を占めるこの病変は、脱臼時に骨頭が関節窩に衝突し、肩甲骨関節窩の骨膜に付いている関節唇の前下部が剥がれたり、摩耗、欠損するものです。若年層の場合、腱板が肩甲骨に引き寄せられ脱臼を起こすこともあるため関節唇の剥離が起こりやすく、この損傷がよく見られます。剥がれた関節唇は初回脱臼時の固定がうまくできたときには再びつく可能性がありますが、反復性脱臼の場合は固定での修復は難しくなります。
2つめは脱臼時に上腕骨に陥没骨折が起こる『ヒル-サックス・リジョン(ヒル-サックス病変)』です。この骨折がそのまま残ってしまうと腕が安定性を失い、一定の角度になると脱臼を起こしやすくなります。そして、最後の1つが脱臼時に肩甲骨側の関節窩前縁部に骨折が起こる『ボーン・バンカート・リジョン(骨性バンカート病変)』です。
反復性肩関節脱臼の治療には手術と保存療法があり、手術にはメスを入れる「直視下手術」と肩関節鏡を使う「肩関節鏡手術」があります。肩関節鏡手術は直視下手術と比べて傷や術後の痛みが少ないことから、日常生活で約6週間(直視下手術では約2ヵ月)、軽めのスポーツで約3ヵ月、コンタクトスポーツで約6ヵ月と早期の復帰が可能です。しかし、この手術には限界があり、症状が悪化するほど肩関節鏡の使用が難しくなります。そのため、肩関節鏡手術は早期(1、2回目の脱臼時)に行うべきです。一方の保存療法については、手術を行わなかったケースを対象にした報告が行われ、初回脱臼時に従来行われていた三角巾などを用いた内旋位固定での治療による再脱臼率が25%だったのに対し、装具を用いた外旋位固定では6%にとどまったことが報告されました。これは二度目以降の脱臼のケースでも同様で、内旋位固定の50%に対し外旋位固定は25%と外旋位固定の有効性を示すものとなりました。
以上のことからも、初回時の治療が反復性肩関節脱臼を防ぐ大きなポイントです。また、複数回脱臼をしている場合でも、肩関節鏡手術が可能なうちに治療を行うことが復帰への近道と言えるでしょう。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。