トップページ > スポーツドクターコラム
スポーツドクターコラム
No.27「脳震とうは受傷後の継続的な意識観察が大切」
2006/01/10
脳震とう
スポーツ中に転倒、衝突などによって頭をぶつけることは少なくありません。こういった頭部への外傷により引き起こされる意識障害には注意が必要です。頭蓋骨と脳をつなぐ架橋静脈が切れて硬膜下血腫が生じたり、剪断力により脳実質内部に「ずれ」が生じてびまん性脳損傷をきたす場合もあるのです。その代表的なものに脳震とうがあります。主な症状は混乱や健忘ですが、症状は極めて多岐に渡ります。
スポーツの現場における脳震とうの判断は、どんな形で受傷したのかを把握すると同時に、軽い意識障害を見落とさないようにすることが大切です。表情がうつろではないか、健忘はないか、ふらつかないか、なども同時に問わねばなりません。
意識の観察・判断の手順としては、まず大声で叫び、音に反応するかを確認しましょう。返事がないときには肩を揺すったり頬を叩くなど、痛みに対する反応を確かめます。この段階で全く反応が見られない場合は強い脳障害が考えられるため、すぐに病院に搬送しなければなりません。ただ受傷直後に意識が回復した場合でも、時間と共に重症化することもありますから、継続した観察が必要です。
意識障害の経過には、様々なタイプがあります。まず1番目は、受傷直後に一過性の意識消失を起こし、数秒から数十秒で回復する場合です。例え意識が保たれていても、自分が何をしているのか分からず、何度も同じことを聞き直すなどの症状もこれに当たります。2番目は受傷してある程度時間が経過した後、意識障害が出てくる場合です。血が脳を少しずつ圧迫して意識を失っていく頭蓋骨内の出血の可能性が考えられ、危険です。受傷直後は意識があったためそのまま帰宅させたとしても、1人で寝かせてはいけません。翌朝意識が低下した状態で発見されることもありますから、必ず誰かが付き添って経過を観察することが大切です。また受傷直後から徐々に意識が低下したり、最初から意識がなく回復もしない場合は、生命の危機にも関わるため、すぐに病院へ搬送しましょう。
受傷した選手の競技復帰には慎重な対処が必要です。完全に回復しないうちに復帰し、再び頭部打撲を負った場合には、死亡例も確認されているのです。また繰り返し脳震とうを起こすと、これが蓄積されて認知症状などの後遺症に苦しむことになりかねないため、競技によっては復帰についての規定が明記されていることもあります。意識消失がなく脳震とうの症状も見られなければプレー続行も可能ですが、分単位の意識消失が見られた場合はすぐに病院で検査を受けましょう。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。