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スポーツドクターコラム
No.47「後十字靱帯損傷は適切な治療で復帰できる」
2007/07/10
後十字靱帯損傷
後十字靱帯は、膝関節内の大腿骨内側から脛骨の後方に走行する靱帯です。主に膝関節の伸展、屈曲、回旋を制限し、後方への動揺性を防ぐ役割があります。前十字靱帯に比べ約2倍の太さと力学的強度を有しており、その損傷は激しい接触による外傷が大半です。スポーツではラグビーなどでタックルを受け、脛骨の過度の内旋強制に伴い受傷するケースがしばしばみられます。
受傷時には関節内で出血し、1~2時間で腫脹が明らかになります。また著しい疼痛により可動域制限をきたし、荷重歩行が困難になることも多いようです。ただ通常、これらの症状は受傷後約2週間である程度改善します。自覚的な膝の不安定感を訴える例もあまりなく、プロスポーツ選手でも靱帯を損傷したまま競技復帰していることが少なくありません。これは脛骨関節面が後傾しており、膝関節後方への動揺性が起こりにくいためです。よって機能障害は比較的軽度と言えるでしょう。
診断は、徒手検査で膝関節の後方安定性を確認することで鑑別できます。KT‐2000という機械を用いると、膝関節の不安定性を計測することができ、より明確です。MRI所見では、靱帯の走行上に表れる異常陰影で判断することができます。
治療としては、保存療法を選択することが多い傾向にあります。まず関節血腫があれば吸引し、専用のサポーターを装着しましょう。疼痛が軽減したら、関節可動域訓練と大腿四頭筋の強化を行います。この段階では、松葉杖で膝に負荷がかからないようにすることも大切です。そして疼痛や腫脹が沈静化し、十分な可動域が得られるようになってから徐々にスポーツを再開させましょう。
手術適用に関しては、日常生活やスポーツ活動時の不安定性の程度などを考慮し、慎重に決定する必要があります。後十字靱帯損傷は二次的な半月板損傷や軟骨損傷の発生も少なく、手術に踏み切るとスポーツ復帰に時間を要してしまうからです。
ただ後十字靱帯損傷の増加に伴い、大腿四頭筋訓練だけでは十分にスポーツ活動を継続できない症例も多々みられるようになりました。膝関節が不安定で脛骨が後方に下がるため、繰り返して大腿骨と半月板がぶつかってしまい、疼痛を訴えたり、膝に水が溜まることもその一例です。以前は後十字靱帯の手術成績はあまり芳しくありませんでしたが、近年では鏡視下手術も進歩しています。手術成績が向上していることもあり、まずは専門医でしっかりと診断を受けることが重要です。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。