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スポーツドクターコラム
No.70「鵞足炎はオーバーユースに注意」
2009/07/10
鵞足炎
膝下後内側には縫工筋(ほうこうきん)、薄筋(はっきん)、半腱様筋(はんけんようきん)、半膜様筋(はんまくようきん)と4つの筋肉が集まっており、その付着部は鵞鳥(がちょう)の足のように見えることから鵞足(がそく)と呼ばれています。付着する筋肉には膝を曲げたり回内したりする働きがありますが、オーバーユースによって慢性的に激しい緊張にさらされることで炎症を起こすことがあります。これを鵞足炎と言い、膝を伸ばしたときに痛みを感じたり膝下後内側に圧痛を生じるといった障害が表れます。
発症原因はオーバーユースだけではありません。スポーツ競技ではサッカーによく見られ、球を蹴る動作の繰り返しに起因します。シュートを打った後、屈筋群の制御が働いて筋肉は伸びようとすると同時に収縮しようと遠心性収縮を起こすため炎症を惹起(じゃっき)します。また、カーブをかけようと下肢を回内しながら蹴るような動きも同様に遠心性収縮を起こすため鵞足炎の原因となります。
また、長距離走にもよく見られます。日本人にはO脚の人が多く、走る際には踵の外側から着地し膝が外回りして地面を蹴り出すため、ハムストリングスが遠心性収縮を起こし痛みを生じます。 ただ、長距離走の場合にはテーピングやシューズの中敷に工夫を加えることで痛みを軽減することが可能です。中敷に縦のアーチサポートを入れることで土踏まずのクッションとなり、アーチ型が落ち込むのを防ぎます。
サッカーにしろ長距離走にしろ痛みが鵞足の筋だけで収まっている間は心配ありませんが、人によっては神経が筋肉を貫いていたり筋肉の下を通っていたりする(伏在神経)ため、過緊張によって伏在神経絞扼(こうやく)性障害を起こすこともあります。鵞足の少し上にある中枢を叩くと放散痛を生じるようになり、筋の痛みだけでは収まらず、鵞足の内側やふくらはぎの内側が痺れ、下肢内側の障害にまで発展します。そうなると、筋肉の炎症が和らいでも神経の痺れはいつまでも残ってしまうので注意が必要です。
鵞足炎は痛み止めやリハビリなどで短期間で治すことが可能ですが、より早期に発見できれば保存療法で十分治ります。股関節や足関節の動きが左右で均等かどうか、そして必要以上に筋肉が固くないかをチェックして、動きの悪さや固さを感じたときには早めに専門医に診てもらいましょう。
また、再発防止には筋肉の緊張をとる十分なウォームアップと入念なストレッチは欠かせません。そして、運動後のクールダウンも怠ってはいけません。鵞足炎になると、膝下後内側だけでなく股関節の動きや足首の動きにも支障をきたすことがあるので、膝だけではなく股関節の回りから足首部分までの筋肉をほぐすようにしましょう。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。