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ひろスポ版【第1回】~10代成長期に多い「腰椎分離症」に潜む危険とその予防策~
スポーツドクターコラム2014/05/04
腰椎分離症
新学期、親子で気をつけたい腰椎分離症は10代前半で発症
さて、新学期が始まりました。学校でのクラブ活動、あるいはスポーツクラブでの活動もこれから活発になっていきます。そこで、どうしても今回お伝えしたい「スポーツ障害」があります。「腰椎分離症」です。
成長期に多く、10代前半でしか起こりませんので、お子さんをお持ちの親御さんは、ぜひ注意していただきたいと思います。成長期における「スポーツ障害」の中で多いのが、この「腰椎分離症」です。
腰椎分離症では、運動をしている最中に腰に痛みを感じるという初期症状が見られます。こうした自覚症状が出たら、すぐに検査を受けなければいけません。痛みを我慢して検査や治療を先伸ばししていると、大人になって大きなツケを払わされることになりかねません。
ただ、普段は特に痛みが無く、運動を続けていくことは可能ですので、ついつい軽く考えがちです。
また、レギュラー争いの最中だったりすれば、自分から「痛いので休みたい」とも言いにくいでしょう。
軽く考えがちな症状だからこそ大きなリスクが潜んでいる
そのうちに、「上体をそらすと腰が痛い」あるいは「腰に痛みが出て、立っている状態から前かがみに手が床につかない」などの症状も出てきます。
そして、だんだん日常生活にも支障をきたすほどの痛みになり、やっと診療に訪れる方が多いというのが実情です。そういう意味では、典型的な「スポーツ障害」であるにもかかわらず、軽く見られているのが実情です。
ですから、こうした症状についてみなさんに知っていただき、早く治療を始めてもらいたいですね。早く対処すれば早く治ります。でもひとたび「分離症」になってしまうと治りにくいものになってしまいます。
さて、「腰椎分離症」は、なぜ発症するのでしょうか?
腰椎分離症発症のメカニズム
「腰椎」の後ろ半分(背中側)は、「椎弓」(ついきゅう)と言ってリング状になっています。そのリングの斜め後方は、細く弱い構造になっていて、背中をそらす動きやジャンプして着地するような動作の際に、そこに力が加わります。
そういう動作が繰り返されるうちに、その弱い部分に「ひび」が入ってきます。体質的な要因もありますから、すべての人が運動によってこの症状が見られるとは限りません。一番下の第5腰椎がよく起こる部位です。運動を続けていると、ひびが入り「疲労骨折」します。この症状は「分離症になる前の段階」で、最終的には患部の骨は分離してしまいます。
「完全に分離」した際には、レントゲンで椎弓の分離部がよくわかります。
しかし、「疲労骨折」の時点ではレントゲンでは発見されにくく、MRI検査によって「早期発見」が可能になります。早期発見、イコール「分離症になる前」に発見することが、非常に重要なポイントになります。
大事なのは「分離症になる前」に発見し治療すること
MRI画像では、患部が白く光るように調整します。「腰が痛い」という患者さんの場合、たいていこの「白く光る」場所を確認することができます。「分離症」とレントゲンで診断される前にMRIを撮って見つかった時点ですぐに治療を開始すれば元通りに回復します。
しかし、「分離症」を起こしてからでは、治療に時間もかかり、元通りにならない可能性も出てきます。
また、「分離症」には「亀裂型」と「疑関節型」の2つのタイプがあります。
少し専門的になりますが、例えば焼き鳥屋さんで手羽を注文してポキッと骨を折ると、白い骨の中に赤いところがあります。あそこが「骨髄」です。ビルディングに例えると建物の中の柱や梁(はり)の部分です。「海綿骨」と言います。
「海綿骨」同士はくっつきますが、白い方の固い「骨皮質」はくっつきません。「亀裂型」の方は、まだ「亀裂」ですから「海綿骨」が出ています。だからくっつきます。
「亀裂型」が進んで骨同士が離れてしまうと、「海綿骨」の表面が固い骨で覆われて、二度とくっつくことはありません。
さて、今度はその治療法です。
骨折ですから、まず固定。かつては「ギプス固定」もやっていましたが、お風呂にも入れず大変なので、今は「コルセット」を使用します。程度に応じてソフトタイプからハードタイプまでいろいろあります。生活に支障もないし、スポーツもできます。
骨がついたかつかないか、治ったかどうかの判断はCT撮影で判断します。疲労骨折でだいたい2~3カ月かかると思ってください。亀裂型はもっとかかる場合があります。
ストレスの加わる腰に負担をかけないストレッチの重要性
ただ、「骨が無事、つきました」で終わりにしてはいけません。なぜこうした症状が頻繁に見られるのか?その原因は、首から腰にかけてかかる機械的なストレスにあります。頸椎、胸椎、腰椎、仙椎に至る関節がスムーズに動いていれば、こうした症状とは無縁のはずです。ところが、その一連の動きの中で一カ所でも動きの悪いところがあると、そこにストレスが集まって「疲労骨折」しやすくなります。どこにストレスが加わるかには、個人差があります。
こうしたことを考えると「コルセットで骨をくっつけます」という治療だけでは不十分です。「腰に負担をかけないようなストレッチ」を併せて行う必要があります。
背中の関節を動かしているのは、小さな筋肉です。それらは腹筋や背筋のような大きな筋肉とは違って、腰の関節一つ一つを動かすように働いています。「小さくて、細かい動きをする」そんな筋肉をきちんと鍛えておくことが重要になります。「腰痛」と「腹筋」「背筋」を鍛えることとは直接結びついてはいないのです。
このような「小さくて、細かい動きをする」筋肉は、関節の動きをスムーズにする手助けをしてくれます。そんな筋肉を鍛えるための手法が、昨今みなさんがよく耳にする「体幹トレーニング」「コアトレーニング」です。
こうしたトレーニングは普段から積極的に取り入れていくことが求められています。「腰を痛めたから」やるのではなくて、「腰を痛める前」にぜひ行っていただきたいと思います。
ただ、世の中にはいろいろなトレーニング方法があふれています。ぜひ、正しいトレーニング方法を学び、そして実践していくことをお勧めします。
次回は、思春期の成長が盛んな時に多い足の障害について取り上げます。また、お会いしましょう!
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。