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ひろスポ版【第3回】~必ず知っておきたい熱中症対策、その原因と対処法~
スポーツドクターコラム2014/07/01
熱中症対策
みなさん、汗ばむ季節になってきましたが、いかがお過ごしでしょうか?
今回は、これからの季節に特に注意が必要な「熱中症」についてお話します。前回に続いてよりお伝えしやすいように、いくつかの語句には「 」をつけました。
熱中症は、運動をしたり、暑い環境下で過ごしている場合に起こるからだの障害の総称です。「熱射病」や「日射病」は、「重度の熱中症」のことを指します。
屋外で起こるとは限らない熱中症
なぜ熱中症が起こるのか?それは体温を正常に保とうとする、脳の奥にある「視床下部(ししょうかぶ)」というところの機能が低下して、汗が止まってしまうことに起因します。こうなると体温の調整がうまくいかなくなってきます。
夏場、暑くなると「打ち水」をします。人間も一緒です。暑くなると皮膚の表面に汗をかき、汗が蒸発する際に「気化熱」が奪われ体温を下げています。人間にはもともと、からだの環境を一定に保とうとする「ホメオスタシス」と言う能力が備わっています。
ところが熱中症では視床下部の機能が低下して、体温が40度を超えたり、汗もまったくかかなくなるような極端な症状がいくつか出てきます。こうなると緊急性が高く、死に至るケースも少なくありません。今年もすでに国内で亡くなられた方がかなりいらっしゃいます。
最初にお話した通り、太陽をまともに受けて障害が出る「日射病」とは異なり「熱射病」は屋内でも発症します。なぜでしょう?
人間のからだは、先ほど説明した皮膚からの「発汗」や、あるいは「放熱」などによって体温を下げています。しかし、たとえ屋内であってもその環境がからだにやさしくないような場合…、室温が皮膚温以上であったり、「湿度」が非常に高いと、「放射」や「発汗」ができにくくなり熱中症を引き起こします。
個人差もあります。持病のある方や高齢の方、肥満や糖尿病、アルコール依存症の方も熱中症に陥りやすいとされています。
車内に閉じ込められたお子さんの例などは、ニュースでもよく見かけます。車内が密閉されていると当然、湿度が高くなります。少しでも窓が開けてあれば、かなり状況も違ってくるのですが…。
個人差も影響する熱中症
こうした二次的な要因とは別に、もともと熱中症を発症しやすい体質の方もいらっしゃいます。この場合、死に至るような最重症のケースが多くみられるのが特徴です。スポーツ医学の発達で指導管理が徹底してもこうした理由で熱中症シャットアウト!とはいかないのです。また麻酔時に異常な高体温になる「悪性高熱症」も家系が影響していることがすでに証明されています。
そう言えば、広島でも少し前に典型的な熱中症の事例がニュースになっていました。夏の甲子園を目指す広島大会で、選手が試合の最中に次々に倒れて大変なことになりました。ご記憶の方もいらっしゃるのではないでしょうか?
選手が次々に熱中症の症状を示したわけですが、彼らは一様に「汗をかかない」、「汗をかけない」状態になっていたようです。
このチームでは「暑熱対策」と称して、冬季に着用するようなウインドブレーカーなどを使い、日々の練習を重ねていたといいます。「暑い環境」にあらかじめ身体を慣れさせておこうというわけです。
しかし、発汗性の少ないウインドブレーカーでは、例え汗をたくさんかいたとしても、それが外気に触れないわけですから、汗の蒸発には繋がりません。「発汗」による体温調整機能が途中で遮断されたため、からだは本来の試合環境とは違った環境に慣らされていくことになりました。
そして試合当日…。もちろん本番では厚手のウインドブレーカーは着用しません。すると選手はほとんど汗をかかないまま試合を続けることになりました。相手チームの方は途中でアンダーシャツがびっしょりになって何度も着替えをしていました。それからほどなくウインドブレーカー着用で練習してきたチームの選手が次々に体調不良を訴えてベンチに下がっていきました。あれだけ大勢の選手が、一度に熱中症にかかるというのはレアケースです。
なお、高校野球は真夏に予選が行われますが、熱中症は真夏だけとは限りません。
熱中症の起こりやすい気候条件などを把握しておくことが大切
前日より急に温度が上がった日、温度はそれほど高くなくても多湿の日、剣道など屋内でも防具などをつけて行う競技、屋外なら同じく防具を使用するアメフットなど、そして梅雨明けに多く、午前10時ごろと午後1時から2時ごろにも発症例が多くなっています。涼しい室内で仕事をしたあと屋外に出た場合もそうです。
ところで、国内にはわざと「高温多湿」状態を作る場所があります。
国内スポーツ競技力の向上を目指すJISS(国立スポーツ科学センター、東京都北区)には、温度も湿度も自由に変えられる「高温多湿」条件を作り出すような部屋があります。こういう施設で積極的に汗をかくのが、本来の「暑熱対策」です。
ここまでは熱中症の概略について説明してきました。ここからは熱中症の症状と分類について少し詳しく触れておきます。命にかかわることですので、しっかり聞いていただきたいと思います。
熱中症の症状は様々
ご覧の表にあるとおり、熱中症は「熱失神」「熱痙攣」「熱疲労」「熱射病」の4つに分類されます。ただ、そこに「旧分類」とありますように現在では少し異なるのですが、みなさんにもわかりやすい「旧分類」でお話をします。
「重症度」が「Ⅰ度」の熱失神と熱痙攣。熱失神は体温も皮膚も正常で汗も出ていますが「意識喪失」となります。意識はあるのですが痙攣を起こすのが熱痙攣です。
続いて「重症度」が「Ⅱ度」と「Ⅲ度」の熱疲労と熱射病、この二つはさらにやっかいです。
熱疲労は、意識はしっかりしていますが体温は39度まで上昇します。さらに発汗はあっても皮膚が冷たくなってきます。
熱射病の方は「意識」が「高度な障害」を起こし、そのまま「意識」が戻らない可能性もあります。体温も40度を超え、皮膚も高温になります。その上、汗も出ない。からだの中が「メルトダウン」を起こしているような状況ですから「緊急入院」が必要です。先ほど紹介した野球部の事例はこの熱射病に近い状態だった、ということです。
まあ、いずれにせよ熱中症が疑われるケースでは、ちょっとでもおかしいな?と思ったらすぐに「休息」です。からだを冷やして、衣服を緩め、安静にすることが先決です。クーラーの効いた部屋に連れて行ってまず安静にします。
素早い判断が必要な熱中症対策
それではクーラーがない場合はどうするか?
はい、みなさんよくご存じですね。「氷のうで冷やす」。正解です!
それでは「どこを冷やすのか?」という問いにはどうお答えになりますか?よく頭を冷やそうとする方がいらっしゃいますが、実はコレ、意味がありません。脳が熱くなる人もいる?かもしれませんが「頭蓋骨」越しに冷やしても効果は極めて限定的です。それよりも「血管」が皮膚の表面近くまで出ているところ、具体的には「頸動脈」のある「首の回り」や同じく「動脈」のある「脇の下」、そして「足の付け根」に氷のうを当ててください。
「血液の循環」に氷のうを当てれば「水冷式」で体温は確実に下がっていきます。
さらに意識があって水を飲めるようであれば「水分補給」を行います。ただここで大切なのは、水分と一緒になって体外に出て行ってしまった「電解質」も同時に補給する必要があるということです。
「電解質」には「カリウム」「カルシウム」「cl(クロール)」などがあります。これら「電解質」が補給できる飲料を最近ではドラッグストアなどで見かけるようになりました。「経口保水液OS-1®」は点滴と同じ成分ですから理想的です。Jリーグでは朝、「OS-1®」の飲用を欠かさない選手も多くいます。市販のスポーツドリンクも同様に電解質を含んでいます。
しかし、意識障害が出たり、吐き気がする場合は、飲料を思うように摂取できません。その際には、救急車ですみやかに医療機関に向かい、適切な処置を受ける必要があります。遅れたらアウト!ここは徹底しないといけません。
「水が飲めないのなら、そのまま少し横にしておけば大丈夫だろう」などと悠長に構えていて、しばらくして行ってみると意識喪失ということだってあります。
迷わず医療機関と連携することが求められる熱中症対策
「熱痙攣」は「Ⅰ度」ですが、水分が取れないことも多く、やはり医療機関に即座に行った方がいいケースも多くあります。また、「熱失神」も意識喪失ですから救急車を呼ばないといけません。「熱失神」の治療には「輸液」が必要で医療機関での処置となります。また、「発汗がない」「皮膚か冷たい」など症状が顕著で安定しない場合は積極的に専門医の下へ向かうべきです。
もし病院で「大丈夫です、今回は大事にはなりませんよ」と言われても構いませんから、素早く対処していただきたいと思います。意識もある、会話もできる、水分も取れる、安定している、というような場合であれば、みなさんが処置して様子を見ていただいても構いません。
熱中症予防に対する知識を深めましょう
このように重篤な場合は生命にもかかわる熱中症。体質的、遺伝的要素は別にして、普段からできる限り「熱中症予防」には気を配りたいものです。それが学校やスポーツに関係する団体であればなおさらです。
熱中症予防としては「暑い環境に体を慣らす」とか「薄着をして直射日光の下では帽子をかぶる」など、よく知られた方法も効果があります。昔からやっていることですし、誰にでもできることですから、ぜひ実践してください。
今、Jリーグでは試合中でも「給水タイム」を設けています。かつては「練習中に水を飲むな!」という時代もありましたがこれはNG!です。野球はインターバルがあるのでそういう時間を使って水分補給をしてください。まだそういう習慣のないチームもあるようです。すぐにでも始めていただきたいですね。
それに加えて、あまり聞きなれないかもしれませんが「WBGT」という熱中症予防の温度指標はぜひ理解しておいていただきたいと思います。
最近あまり見なくなった「乾湿球温度計」をご存じの方は思い出してください。気温は「乾球温度」で、湿度は「湿球温度」で計ります。さらに「黒球温度計」というものがあってこれで「輻射熱」を計ります。「輻射熱」は、簡単に言うと「直接伝わる熱」のことです。ここに「気流」の影響も反映し、この4つの要素にある係数を掛け算して導き出した数字がWBGTと言われる熱中症予防のための温度指標になります。
「乾球温度」「湿球温度」「WBGT」のそれぞれで熱中症予防のための「指針」を判定することができます。例えば「WBGT」なら31度以上で「運動は原則中止」、28度以上で「厳重警戒」、25度以上で「警戒」、21度以上で「注意」、それ未満なら「ほぼ安全」となりますが「ほぼ安全」であっても「マラソン」などは注意が必要です。
ただ、学校などで毎日それを計測して、いちいち計算して…、では大変です。実は「WBGT温度計」というスグレモノがすでに発売されています。1万円から3万円ぐらいで、ネット販売でも手に入ります。
なお、一定の目安として湿度が低い場合でも乾球温度計で35度以上なら運動禁止です。31度以上であれば、激しい運動は中止。体力の弱い人はここでも禁止です。湿度が高い場合は27度以上で運動禁止、24度以上で激しい運動は禁止です。「WBGT」の指標と合わせて判断すれば、より熱中症対策はきめ細かなものになります。
ただこうした温度指標に従って運動しても、やはり汗はかきますし、同時に電解質も失われます。そのため、発汗量に合わせた水分補給と塩分補給を必ずしていただきたいと思います。
コンビニエンスストアで売られている「塩アメ」でも十分に補うことができます。スポーツドリンクを受け付けない年配の方もいらっしゃいます。お茶ばかり飲むのではなく、お茶を飲んだら塩アメをなめる。これで日常の熱中症対策ができる、というわけです。それと同じ飲むなら緑茶よりミネラルの多い麦茶がオススメです。
さて、最後に熱中症にかかった場合の応急処置についてです。
経口補水液またはスポーツドリンクを飲ませる。この点についてはすでに説明しました。ただし、冷たい飲料を大量に飲むと胃痙攣が起こることがあります。同じ冷やすなら先ほどの氷のうで首や脇の下を冷やしましょう。おなかを冷やしてもそう変わりはありません。
また、スポーツドリンクの中には塩分濃度が低すぎるものがあり注意が必要です。体に霧吹きで水をかけ気化熱でからだを冷やすのも有効ですが、湿度が高いと逆効果です。
速やかに病院に…、という話もすでにしましたが熱中症に「自覚症状」はまずありません。「オレ、熱中症だ」とは自分で言わないわけですから周囲の人の目が大事になってきます。
地球温暖化などの影響でますます必要になってくる熱中症対策、鍵を握るのは常日頃からの心がけ
さて、今回はお話が長くなりましたので、そろそろまとめに入りたいと思います。
みなんがよく耳にされるように昨今の地球は「温暖化」が進み、世界各地が猛暑に襲われるケースが相次いでいます。少し前なら木造校舎の小学校でも十分に授業ができましたが、今ではもうとても無理でしょう。
また「ヒートアイランド現象」も我々の生活に大きな影響を及ぼしています。熱中症は「運動の最中に…」というイメージが強いのですが都心の真ん中でも発症する障害となっています。熱中症が以前よりも我々の身近な存在になりつつある現代においては、日頃から体を動かし、汗を流して「暑さ対策」を習慣づけることが大切になってきます。「夏が近いから」というのではなく、1年を通じて運動に親しむ、あるいはウォーキングをする、という具合です。
最後にキツイことを言うようで申し訳ありませんが肥満気味の方は「脂肪布団」をからだに巻きつけているようなもので、それこそ熱の発散の妨げになっていますので、早めに「薄手の布団」に交換されることをお勧めします。
それでは次回、また元気にお会いしましょう!
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。