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ひろスポ版【第5回】~「スポーツの秋」に要注意!ひとたび発症すると半年はかかるアキレス腱断裂予防法~
スポーツドクターコラム2014/10/28
アキレス腱断裂
スポーツの秋です。みなさん、存分に体を動かしていただきたいと思います。ただ、これまでまったくスポーツに親しんでこなかたった方が、突然ランニングを始められるようなケース、あるいは子どもさんの運動会で出番が回ってきて張り切るお父さん…というようなケースで特に要注意のスポーツ障害をご存じでしょうか?
その答えは、みなさんもよく耳にする「アキレス腱断裂」です。30~50歳のスポーツ愛好家に多く発症し、またレクリエーション中の受傷も多いため細心の注意が必要です。
なお、これまで同様、カギになる用語などには「 」をつけておきました。
アキレス腱断裂はいつ起きる?
アキレス腱断裂は、ダッシュやジャンプなどの動作で「下腿三頭筋」(ふくらはぎの筋肉)が急激に収縮した時や、着地の動作で急に筋肉が伸ばされた時に発症します。競技別で見ると、バレーボール、テニス、バドミントンなどに多く、町内会ソフトボールなども要注意です。
お父さん方、ストレッチ、ウォーミングアップをしっかりやっていますか?
早朝ゴルフも危うい、という自覚が必要です。大勢の注目する中でドライバーショット!ラフへ入った、OBかも?と走ってラフの中へ…、という過程で「ふくらはぎを棒で叩かれた」とか「後ろからボールが当たった」ような感覚があった時、それがまさに「アウト!」の瞬間です。ティーグラウンドはだいたい高くなっていて、そこから駆け下りていく最中にもよく起こります。これは「悪魔の一撃」とも呼ばれている、アキレス腱断裂の発症の典型パターンです。加齢によって血の巡りが悪くなると腱自体が衰退して断裂しやすくなりますからゴルフ世代は要注意です。
本来、スポーツ愛好家と呼ばれるみなさんは、アキレス腱断裂には十分に留意して、時間をかけてストレッチなどを行い、様々なスポーツを楽しんでいらっしゃいます。ただ、それだけ注意していてもやっぱり発症してしまうのがアキレス腱断裂の怖さでもあります。
注意を払っていても発症するケースも…
知らない間にオーバーユース(その部位の使い過ぎ)になってしまって、しっかりウォーミングアップしたにもかかわらずアキレス腱断裂を発症するケースも多々見られます。プロの選手であってもそうなのですからアキレス腱断裂はやっかいなスポーツ障害と言えるでしょう。
アスリートや選手がアキレス腱断裂を発症するケースでは、何の前触れもなく「突然に切れる」ということはまずありません。アキレス腱に過度のストレスがかかれば当然、痛みなどが生じてきます。
さて、ここでどうしても触れておきたいのが「医原性」の問題です。「医原性」とは「医者の行為が原因で生じる性質の疾患」を指します。アキレス腱断裂の痛みには以前、「ステロイド注射」が用いられたりしていました。炎症が引いてすごく楽になるため、一度打つとどうしても2回、3回と回数を重ねていきがちです。でも、選手の希望に応じてどんどんステロイド注射を打っていると、最終的にはアキレス腱断裂という最悪のケースに陥ることにもなりかねないのです。ステロイド注射は血行不良を引き起こします。結果的には短命に終わってしまう選手が多いのです。
そうしたことから、最近ではスポーツドクターの常識として、アキレス腱断やその周辺にステロイドを打つことはまずありません。治療を行う際には、その方法にも注意が必要なことを理解しておいていただきたいと思います。
少し前の話ですが、まだご記憶の方も多いでしょう。1994年、サンフレッチェ広島が第1ステージ優勝を果たし、ヴェルディ川崎(現ヴェルディ1969)とのチャンピオンシップ第2戦(東京・国立競技場)を戦う中で、初代エースストライカーの高木琢也選手が左脚アキレス腱断裂を発症しました。
後半12分、ピッチを走っていた高木選手は突然、転倒して動かなくなりました。ベンチから見ていた我々ドクターやトレーナーは何が起こったかすぐに分かりました。
高木選手は優勝した第1ステージ終了後から左脚アキレス腱周囲炎を起こしていました。チャンピオンシップ本番では、広島であった第1戦から最悪の状況でした。しかし、本人が出場続行を強く希望、当時のバクスター監督とも意見交換した上で強行出場に踏み切ったのでした。
アキレス腱断裂後は手術、そしてリハビリ に取り組む
悪夢の試合からまもなく手術は行われ、翌95年の年明けに退院したあとのリハビリにはチームを挙げて取り組みました。当時の私はまだ勤務医でした。私が以前に勤務していたリハビリテーション専門病院に高木選手は入院。アキレス腱断が十分に繋がるまでリハビリに取り組みました。さらに3月になると次の段階としてバクスター監督の紹介でスウェーデンに渡り、専門施設でリハビリに取り組みました。
私が95年5月に当院を開業したころ、高木選手は広島に戻ってきました。そして当院でもリハビリに励み6月には練習に合流しました。その後、第2ステージの途中から戦列に復帰した高木選手は10月4日のセレッソ大阪戦で326日ぶりとなるゴールを決めたのです。その年末からの天皇杯では4試合連続ゴールの完全復活!チームを準優勝に導いたのです。
ここまではプロ選手、アスリートの例をお話してきました。続いてみなさんに身近な例を紹介していきましょう。
身近に潜む思わぬ落とし穴
まったく運動していないケースですが、この場合はアキレス腱断裂に「シーズン」があることを知っておいてください。運動会シーズンです。しかも子どもさんの運動会、やはり親御さんは子どもさんの前ではかっこよくありたいのでつい無理をしてしまいます。日頃、運動をされないみなさんがストレッチもせずにいきなり走るわけですし、中には革靴、あるいは裸足の方もいらっしゃいます。これらは当然、全部NGです。
お父さん方は子どもさんの前でつい無理をしがち…
ちゃんと運動できるシューズを履いて、ストレッチやウォームアップをしてジョギングぐらいしてからでないと走ってはいけません!「そろそろ父兄のリレーです」と呼び出しがあって「よし!」とそのまま出場…、というのは最悪です…。特に「昔、やっていたから」という方は要注意です。
私は母校でもある広島市内の小学校で運動会の医務担当もしているのですが、必ずひとりふたりはアキレス腱断裂やハムストリングス、ふくらはぎの肉離れを発症する方が出てきます。しかもケガをする場所がだいたい決まっています。
小学校などあまり広くない校庭にラインの引かれた周回コースで、スタートダッシュのあとの第1コーナーか第3コーナーが“鬼門”です。第1コーナーは最初のカーブです。ただしこちらは主賓席。一方の第3コーナーでは「お父さんがんばって!」と声援が飛んでくるので、急カーブを走りながらどうしても無理をしてしまいがちです。
そこで「うん!」と力を入れて「ボン!」と音がしてアキレス腱断裂となるのです。第3コーナーでは不謹慎な話ですがおもしろいようにみなさん転倒されます。さきほど「悪魔の一撃」の話をしましたが「魔の第3コーナー」もしっかり心に留めていただきたいと思います。
アキレス腱断裂の症状とその後の対応 と治療
アキレス腱を断裂すると「断裂部にへこみ」を触れ、圧痛も生じます。先ほど、ゴルフのところでも紹介しましたが、アキレス腱を他の人に後ろから蹴られたような感覚があり、ベタ足歩行は可能ですがつま先立ちはできません。
仮にみなさんが不幸にもアキレス腱断裂を発症した場合の治療には二通りが考えられます。断裂したアキレス腱を直接縫合する「手術治療」と、手術しないでギプスや装具を用いて腱の修復を目指す「保存療法」です。確実に治るのは手術ですし、手術した方が結果的には早く治ります。ただし女性の場合は傷のこともありますし、それぞれ長所短所があります。今後スポーツはしません、という方であれば「保存療法」でもいいでしょう。
スポーツ復帰を考えた場合、治療開始から4カ月程度で軽い運動から可能になりますが、以前と同じようにプレーしようと思えば、やはり半年はかかると考えた方がいいでしょう。もちろんスポーツを再開する時には入念なストレッチが必要です。また瞬発系の動きも半年が経過するまでは控えないといけません。
このようにひとたびアキレス腱断裂を発症すると、日常生活でも長期に渡って不便を強いられることになります。「この秋、久しぶりに毎日、ジョギングでもやってみるか!」と考えていらっしゃる方は、どうか最初からそんな無理はせずに、時間をかけてストレッチしたあと、まずはウォーキングから、あるはい自転車を漕いでいい汗を流すといったことから始めてみられてはいかがでしょうか?
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。