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No.49「投手に多くみられる肘部管症候群」
スポーツドクターコラム2007/09/10
肘部管症候群
肘部管とは、肘関節にある神経の通り道のことを言います。この部分に障害を生じるのが、肘部管症候群です。腕の小指側を通る尺骨神経が肘部で圧迫を受けたり牽引されることによって、薬指や小指、前腕内側に痛みやしびれを感じます。
スポーツでは、野球の投手にこの障害がしばしばみられます。投球時にコッキングポジションをとったとき、尺骨神経にかかる圧力は安静時の約6倍となるため、日常生活に支障はなくても投げ始めると症状が表れるはずです。肘がだるくなったり、指先に力が入らず度々ボールがすっぽ抜けるのも、症状の1つと言えるでしょう。
肘部管には、障害を受けやすい部位が3つあります。中でも野球選手に多いのは、肘の内側にあるオズボーンバンドと、裏側にある滑車上肘靱帯(筋)です。オズボーンバンドは尺側手根屈筋の中に尺骨神経が入り込む部分のことで、膜のようになっています。この膜が投球動作を繰り返すことによって固くなり、障害を発生しやすくなるのです。滑車上肘靱帯は、その下を通る神経を圧迫することで障害を生じます。野球選手の場合は、まれにこの靱帯がより太い筋肉になっていることもあり、痛めやすいようです。
診察は、まず肘の内反、外反を調べます。肘関節の可動域をみて尺骨神経の脱臼を触診し、手の内在筋に萎縮があればこの障害を疑うことができます。一般的には肘の内側を叩き、小指と薬指の一部にしびれが走ることでも診断できるでしょう。知覚が鈍いなど、異常が確認される場合は要注意です。
治療には、多くのケースで保存療法を用います。長時間の肘関節屈曲位が神経刺激の原因となるため、まずは常にそういった状態を避けることが大切です。そのうえで尺側手根屈筋や滑車上肘靱帯(筋)の緊張を緩和する治療やストレッチを行ったり、尺骨神経の炎症を抑えるためにビタミンB群を投与することもあります。
またこれらの治療と同時に、投球フォームの矯正も考えなければなりません。コッキングポジションの長いアンダースローは、必然的に肘への負担が大きくなるため工夫が必要です。フォームのバランスの悪さが障害の原因となっている場合は、下半身を強化して手投げの状態を改善しましょう。
以上のような治療を行っても効果がみられない場合は、手術に踏み切ることもあります。神経を圧迫する可能性がある部分を全て切離したり、筋肉の一部を切断して神経を前方に移動させるのも1つの方法です。ただ症状が悪化すると手術さえも意味を持たなくなることがあるため、早期治療を心掛けましょう。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。