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お知らせ
No.54「投球動作や脱臼が関節唇損傷の主な原因」
スポーツドクターコラム2008/02/10
関節唇損傷
肩関節で上腕骨頭がはまっている肩甲骨のくぼみを関節窩と言います。ただ関節窩は上腕骨頭の約4分の1しか覆っておらず、これだけでは他の関節に比べて不安定です。そこで大きな役割を果たしているのが、関節唇になります。関節唇は関節窩の周りについており、小さいながらも車のタイヤ止めと同じような働きをしています。
この関節唇を負傷するケースは様々なものが考えられますが、中でも最も多いのは野球です。ボールを投げるときに、関節唇上部(=SLAP)とつながっている上腕二頭筋長頭腱が引っ張られたり、肩関節にねじれの力が加わることによって、損傷や痛みを生じます。特に投球動作のコッキング期(振りかぶった状態)からアクセレレショーン期(ボールを放す前まで)には大きな負荷がかかるため、痛めやすいと言えるでしょう。野球以外では、ラケット競技やバレーボールのサーブなど、投球時に似た動作を行うスポーツでもこの障害がしばしばみられます。
SLAPの損傷は、大きく分けて4タイプに分類できます。タイプ1は縁が擦り切れた状態、タイプ2は関節唇が一部のみ剥離した状態、タイプ3は関節唇の上部がバケツの柄のように垂れ下がるほど大きく剥離した状態、タイプ4はバケツ状の損傷が上腕二頭筋長頭筋にまで及んだ状態です。
初期治療としては、基本的に適切なリハビリを行って様子をみます。それでも症状が回復しない場合は、それぞれのタイプに応じて手術を行うことも視野に入れなければなりません。
また肩関節の脱臼に伴い、関節唇を損傷することも多々あります。脱臼したときに上腕骨頭が関節窩に激突することで、関節唇の前下部が関節窩から剥がれたり摩耗してしまうのです。この状態になると、関節唇が上腕骨頭の動きを制御する役割を果たせなくなり、反復性の脱臼につながりやすくなります。
関節唇の損傷が軽微な場合は、まず肩のインナーマッスル(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)を鍛えることで治癒を図りましょう。しかし症状が進行して脱臼を繰り返しているときは、関節唇だけでなく骨や軟骨まで損傷している恐れがあるため、手術の適応に踏み切ることも考えられます。
診断はMRIが有効です。それも普通に撮影するのではなく、関節の中に生理食塩水及び少量の造影剤を入れることによって、よりコントラストを鮮明にする方法がよく用いられます。この診断法であれば摩耗する前の小さな損傷でも識別しやすくなり、早期発見も比較的容易です。早期回復のためにも、早めに専門医で診断を受けるようにしましょう。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。