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お知らせ
第二期 VOL.11「落馬などで多く見られる棘突起骨折」
スポーツドクターコラム2012/12/25
棘突起骨折
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棘突起骨折の話を始める前に、まずは脊柱から説明した方が分かりやすいかもしれません。脊柱は7個の頸椎、12個の胸椎、5個の腰椎に加え、仙椎と尾骨からなっています。これらの部位を構成する骨を椎骨と言い、これは椎体、椎間関節、椎弓、横突起、そして今回のテーマである棘突起などからできているのです。分かりやすく言えば、首の裏から背骨に沿って触ると出っ張っている部分がありますが、それが棘突起です。棘突起には体幹筋が付着しており、脊柱を支える役割を担っています。
棘突起骨折で一番多いのが、一番長い第7頸椎の棘突起とそのすぐ下にある第1胸椎の棘突起です。首のすぐ後ろにある2本の棘突起は、周囲の筋肉により過度の負荷が掛かった際に2本が当たり骨折に至ります。負荷が掛かる例としては5つを挙げることができます。過屈曲伸張(後頭部を下から突き上げられるときに起こる伸張)、過屈曲圧縮(頭頂部へ外力が加わり起こる)、過伸展伸張(頭部が過伸展し頸椎に伸張力が加わる)、軸圧(頭頂部への軸圧外力が加わる)、過回旋(外力により過度の回旋が起こる)がそれに当たります。難しい書き方をしましたが、これらは全て頚部に一方向から強い外力が加わる現象です。単独で作用するというよりは、複合外力として圧が掛かり傷害を招きます。
棘突起を骨折した場合はだるさや痛みを感じ、軋轢音を聞くことがあります。しかし、棘突起のみの骨折は非常に珍しく、交通外傷など一般外傷としてはあまり見ることはありません。頸椎の場合はカラー、腰椎ならコルセットをして、長くても4週間から5週間で完治するはずです。レントゲンで撮れば大部分は発見することができまし、完治すれば競技に復帰することも可能です。
スポーツ障害としては水泳の飛び込み時やラグビーなどのコンタクトスポーツ、ゴルフや野球のスイング時の骨折も報告がありますが、症例としてはそう多くありません。野球ではヘッドスライディングの際に痛める可能性も考えられますが、これも一般的とは言えないでしょう。今春巨人の財前貴男選手が第6頸椎棘突起を骨折しましたが、これは死球によるものなので例外でしょう。唯一多く見られるのは競馬で、騎手が落馬したときに背中を打つシーンを読者の方もご覧になったことがあるのではないでしょうか。そのときに掛かる外力が、背中方向に張り出した棘突起に力を加え骨折に至るのです。
棘突起のみの骨折は少ないと言いましたが、棘突起骨折は椎骨の脱臼骨折とともに見られることが多く、これはほとんどの場合で脊髄損傷を招くため非常に危険です。椎骨を脱臼骨折した場合はガードナー装置を用い頸椎をけん引して整復手術を行います。しかし、損傷した脊髄は修復不可能であるため、スポーツ選手としての復帰は難しいと言わざるを得ません。
背部には人間を支えるさまざまな部位があり、傷害によってはスポーツ生命だけでなく実生活にも影響を及ぼします。ただし、棘突起骨折は必ず治る外傷です。異変を感じたらすぐに受診し、早期回復に努めましょう。
スポーツドクターコラムは整形外科医師 寛田クリニック院長 寛田 司がスポーツ医療、スポーツ障害の症状、治療について分りやすく解説します。